Stories Vol.3|「僕が生きて証明したい」── “子どもが孤立しない社会” 施設出身の若者が挑む、社会を変えるNPOの挑戦 後編

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保育の道へ──学生とNPO理事長、二つの顔
── 保育学校にはいつ入学されたのですか?
川村:
「2024年度に入学しました。
日中は保育学生として学びながら、
実習での経験や授業で学んだことを活かして、
自分で子ども食堂や親子向けのイベントを企画するようになりました」
── そこから、任意団体、そしてNPO法人の立ち上げへ。
川村:
「2024年度の1月に、まず任意団体として活動を始めました。
活動を続ける中で、神戸市主催の交流会に参加したんです。
そこで、すでにNPO法人として活躍している方々の話を聞いて、
“やっぱり法人格があると、行政や地域団体と連携しやすいんやな”
と強く感じました」
── 学生で活動していると、難しさもあった?
川村:
「ありましたね。何かあったときに、
“保育学生”ということで学校へ連絡が行ってしまうこともあって。
“自分たちの活動は、自分たちで責任を持ちたい”
“自分たちの看板で勝負したい”
という気持ちが強くなりました」
── そこで、NPO法人化を決断した。
川村:
「はい。任意団体のときから一緒に動いてくれていた学生の仲間や、
他校の友人、応援してくれている大人の方々に理事として入ってもらって、
2025年6月6日、NPO法人『心の絆』を立ち上げました。
いわゆる“学生起業”という形ですね」
子ども食堂──“イサオに会いに来た”と言われる喜び
── 今は、どんな活動をされていますか?
川村:
「子ども食堂と、地域連携のイベントが中心です。
“こんなこと一緒にやらへん?”と声をかけてもらった企画に乗ったり、
こちらから“こういうことしたい”と提案したりしながら、
地域の方と一緒にイベントを作っています」
── 音楽イベントやアートの企画もされていましたね。
川村:
「はい。任意団体のときに、交流会で知り合ったカホン奏者の方と一緒に、
児童館でワークショップをしました。
ほかにも、“芸術は爆発だ!”みたいなノリで(笑)、
レンタルスペースの壁や床一面に紙を貼って、
子どもたちが素手で自由にペイントできるイベントをしたり。
神戸には、音楽やアートの分野で活動されている方がたくさんいて、
『子どものために何かしたい』と思っている人も多いんです。
そういう大人と子どもをつなげて、
お互いにとって“いい経験”になる場を作りたいと思っています」
── 子ども食堂には、どんなご家庭の方が来られますか?
川村:
「最初は乳幼児が多くて、親子で来てくれる方が中心でした。
回を重ねるごとに小学生の子も増えて、
障害のあるお子さんが参加してくれることもあります。
子ども食堂では、子どもたちが『イサオ〜、会いに来たよ〜』
って友だち感覚で来てくれるのが、すごく嬉しいです(笑)」





心の絆開催のイベントの様子
── 運営はどのように?
川村:
「新開地にある飲食店さんと一緒にやっています。
季節の野菜や、自分たちで育てた野菜を使ったりして、食育に力を入れています。
最近、常連の子が、手作りのキーホルダーをくれたんです。
“イサオに作ったよ”って。」

地域の課題──高齢化と“見えていない孤立”
── 活動をする中で、地域の課題として感じることは?
川村:
「一番は、高齢化と若手不足ですね。
今まで地域を支えてきた方々、例えば、ふれあいのまちづくり協議会、青少年育成協議会、民生委員さん達からも、高齢化で“次の担い手”が足りていないとよく聞きます」
── “地域を継承する人”が少なくなっている。
川村:
「そうですね。核家族化も進んでいて、“地域で子どもを見守る”という感覚が薄れているように感じます。
でも、本当はもっと若い世代が地域の活動に関わっていって、
“みんなで子どもを育てる”文化を取り戻していけたらいいな、と」
── 貧困やいじめなど、見えづらい課題についてはどう感じていますか。
川村:
「数字上では、貧困やいじめの件数は出ているけれど、
現場としては“まだ会えていない子ども”が絶対にいると思っています。
── 経済的にも精神的にも余裕がないと、そもそも情報にアクセスするエネルギーが湧かないこともあると想像します。
川村:
だからこそ、僕らみたいな活動を“知ってもらう”ことが大事で。
知ってもらえたら、行くか行かないかは、その家庭の選択肢になる。
でも、知らなければ、その選択肢すら持てないんですよね」
川村:
「まずは、“知ってもらう”ところまで、とにかくアプローチし続けたい。
その上で、『困ったときは、あそこに相談したらいいんや』
そう思ってもらえる存在になりたいです」
未来──空き家を“家庭”に、農の現場と子どもをつなぐ
── 今後の目標を教えてください。
以前、空き家を活用した居場所づくりの構想をお伺いしました。
川村:
「まだ、説得力を持てるところまでは形にできていないんですけど……
空き家を使って、子どもたちにとっての“家”のような場所を作りたいと思ってます。
空き家って、ただの“物件”じゃなくて、もともとは“誰かの家”だった場所ですよね。
そこで、子どもたちが安心して過ごせて、いざという時には“逃げ込める場所”になるような、
そんな“家庭のような温度のある居場所”を作りたいんです」
── 農業との連携についても話されていましたね。
川村:
「はい。子ども食堂をしていると、
“食べ物の向こう側”にある人や風景にも触れてほしい、って思うようになりました。
まだまだ繋がりを構築中ですが、兵庫県って農業をされている方や農村地域もたくさんありますし、兵庫県に限らず、地域で畑をされている方もおられます。
そういう農家さんと子どもたちをつなげて、農業体験や収穫体験を通じて、“地域みんなで子どもを育てる”っていう社会が現実化していく一歩になればいいなと思って活動しています。」
2026年3月25日──希望を届けるために、故郷の施設へ
── 高知の児童養護施設・愛童園でのイベントについて伺えますか?
川村:
「はい。2026年3月25日に、僕の出身施設である高知県の児童養護施設・愛童園で、ボクシングイベントを開催します。
中学のときに憧れていたプロボクサー・坂本選手と一緒に、
子どもたちとミット打ちをしながら、
それぞれの思いを受け止める時間にしたいと思っています。
“強く生きてほしい”というメッセージを、まっすぐ届けたいです」
── お兄さんとのコラボ企画も、進んでいると。
川村:
「はい。兄貴も、同じ児童養護施設出身なんです。
兄は今、マジシャンとして活動していて。
兄のマジックと、僕たちの活動を組み合わせて、いずれは全国の児童養護施設をまわりたいと思っています。
『施設で育った兄弟が、一緒に子どもたちに会いに行く』
その姿自体が、誰かの希望につながれば嬉しいですね」
民生委員として、“困っている人のところへ行ける大人”に
── 12月には、新たな一歩も踏み出す予定だとか。
川村:
「はい。民生委員支援員として推薦をいただいて、12月1日に委嘱されることになりました。

民生委員になることで、これまで以上に、本当に困っている人たちに近いところで関われると思っています。
これまでは“居場所を作って待つ”ことが多かったけれど、これからは“こちらから会いに行ける大人”にもなりたい。
地域の方と連携しながら、社会的養護が必要な子や、困りごとを抱えた家庭に、しっかり寄り添っていきたいです」
社会福祉法人化という、次のゴール
── 現在の大きな目標はありますか?
川村:
「社会福祉法人化を目指しています。
今はNPOとして、“僕がこういうことをしたい”という思いに、たくさんの人が力を貸してくれて、形にできている状態です。
でも、社会福祉法人になれば、今度は僕が、“誰かのやりたいこと”を支える立場になれる。
『私はこういう保育観を大事にしたい』
『こんな居場所を作りたい』
そういう仲間の思いを、一緒に実現できる存在になりたいです。
これまで支えてもらった恩を、今度は“人の夢を後押しする形”で返していきたいと思っています」
“僕が生きて証明したい”
── 最後に、社会へのメッセージをお願いします。
川村:
「僕のような境遇の人は、どうしても自己肯定感が低くなりがちです。
親を選べないし、生まれた環境も選べない。
実際に、施設を卒業した友だちの中には、連絡がつかなくなってしまった人もいて、先生たちと一緒に心配している子もいます。
社会に出るとき、“あの子、大丈夫かな”って見られてしまうこともある。
でも、本当は誰だって、挑戦する権利があるはずなんです」
── 同じような境遇の子どもたちに、伝えたいことは?
川村:
「環境は選べなくても、大人になったら“環境を選ぶこと”はできる。
『自分はどうせ無理や』
『自分はこういう家庭だから』
って、自分で自分を制限せずに、まずは何かに挑戦してみてほしいです。
『自分も、やってみたらできるかもしれない』って思ってもらえたら嬉しいです」
── もし、その子たちが本当に困ったときは?
川村:
「『困ったら、俺に連絡してこい。なんとかやっていこう』
って、本気で思っています。
僕が人生の中で出会った大人たちがそうしてくれたように、今度は僕が、誰かの力になりたい。
生まれ育った環境がどうであっても、人は何度でも、やり直せるっていうことを
“僕が生きて証明したい”んです。
」
“僕が生きて証明したい”──
どんな生まれ方をしても、挑戦していいということ。
自分の人生を、自分で選んでいけるということ。
この、当たり前だけれど、なかなか信じきれない事実を、
彼は一歩ずつ、自分の歩みで確かにしてゆく。
川村功という青年の、新たな大きな夢に向かう挑戦は、まだ始まったばかりだ。
TulipaDesignでは、川村さんの2026年3月25日のイベントまでを追う
ドキュメンタリープロジェクト(映像・記事)を立ち上げました。
この活動に共感し、ともに応援してくださる賛同者・協力者の方も募集しています。
ご関心のある方は、お気軽にご連絡ください。
tulipa.design.works@gmail.com


