Stories Vol.6|閉店の知らせから2ヶ月で“居場所”を引き継いだ。ライブハウスを「地域の文化カフェ」にする人 第3章——街に音楽をつなぐ

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自分自身もミュージシャンであること
──右京さん自身もミュージシャンとして活動されていますよね。ここでもライブをされたりとか?
月一回は自分のソロコンサートという形でここのソロコンサートをしています。
これは自分への「ご褒美タイム」みたいな感じなんです。
いつもはお客さんと一緒にイベントを作っていくという役割をしているんですけど、この日は自分の音楽をやって自分語りもしっかりやって、それを楽しんでくれる人が来たらいいいなという時間として、1日いただいている感覚です。

──お店以外での活動は?
はい。秋はやっぱりイベントも多いので、呼んでもらってタイミングが合えば出たりしています。
外に出ていくことも、できるだけやりたいなと思っていて。
ただ、このお店があると「一日休む」っていうのがなかなかしんどいんですよね。
ギャラが出る現場の時は、心配は和らぐんですけど。
この前は、朝の時間帯で枠を組んでもらって、朝ライブをして、昼から店のイベント、夜は別のライブ…みたいに、バランスを取りながら動いてました。
──すごいですね。外に出ると、また新しい出会いも増えますよね。
右京さん:
絶対それはあります。
だから、そういう感じにしていきたいですね。「外に出ていく」っていうのは。
街で歌うということ──30分に込める「ここだけの話」、「ご当地」
──いろんな場所で歌うと、ここで歌うときと外で歌うときで、やり方やセットリストも変わりますか?
右京さん:
変わりますね。
ここでやってるソロコンサートは持ち時間がだいたい1時間半、外だと30分くらいのことが多いので、ぎゅぎゅっとまとめます。
地元のイベントに呼んでいただくこともあるので、そういう時は地域のエピソードをMCに混ぜたり、ご当地感を出したりしますね。
──地域密着でやってるからこそ、出てくる話がある、と。
右京さん:
あると思います。
あと、豊中で活動するって決めた時に、ご当地ソングみたいなのをいろいろ作ったんですよ。
豊中の会場でやる時なんかは、MCで話しつつ、その曲をやったりします。
──どんな歌詞なんですか?
右京さん:
そこの「一中の男の子と四中の女の子が恋をする」とか。
自転車を立ちこぎして坂道を登って会いに行く、みたいな。
ここに住んでないと分からない坂道があるんですけど、そういうめちゃくちゃローカルなネタを入れてます。

──ここまで来たら「あの歌のあれだ」って分かるやつですね。
右京さん:
そう。来たら分かる、みたいな(笑)。
そういうのが伝わったら嬉しいですね。
お店を始めてから「作る時間」が減った。だから締切を作る
──曲作りの時間って、確保できていますか?
右京さん:
お店を始めてから、正直あんまり作れなくなりました。
日々いろんな音楽を聴いて刺激は受けるんですけど、それをアウトプットする余裕がないというか…。言い訳ですけど(笑)。
ただ最近は、地元の“曽根”をイメージした短編映画を作っている方がいて、そのプロジェクトに混ぜてもらって。
主題歌や挿入歌を作ってほしいって声をいただいて、締切があるのでちゃんと作りました。
普段は締切がないとサボっちゃうんで、逆に自分で締切を設けて、「このイベントまでに完成させて、そこでやる」みたいなことをしています。
──自己管理、大事ですね。
右京さん:
ほっといたら全然作らないんで(笑)。
──映画の話、面白そうです。ここも舞台になるんですか?
街を舞台にした短編映画を作っている制作チームがあって、その作品の舞台として曽根が選ばれたんです。
別のお店からの紹介で「ここ、協力してくれるかもよ」って繋いでもらって。
街をテーマにした映画を作っている方たちです。曽根はその“3つ目の舞台”になりました。
──実際に、ここで撮影も?
右京さん:
そうですね。ここも舞台になりますし、僕も本人役で出る予定で、セリフもあります(笑)。
こういうのは初めてなので、正直ちょっとドキドキしてますけど、面白いなと思って。
客層は“親世代”が中心。でも、家族にもひらいていきたい
──お客さんの層に特徴はありますか?(さっき少し聞きましたけど)
右京さん:
そうですね。やっぱり親世代というか、60代ぐらいの方が割合としては多いですね。演奏される方も、子育てが落ち着いて、時間的にも金銭的にも少し余裕が出てきた世代の方が来てくださることが多いです。
──演奏される方が60代ぐらい、という感じなんですね。
右京さん:
そうですね。演奏する側も、聴きに来られる側も、その世代の方は多いかなと思います。
──なるほど。出演者さんのファンで来られる方もいますよね。
右京さん:
もちろんいます。ただ、若い方たちも来ていて。ギターサークルに来てくださっている方のお子さんが音楽をやっていて、小学生・中学生でもめちゃくちゃ上手だったりするんですよ。子どもたちでバンドを組んで練習できる場所としても使ってもらえたら、って思っています。
──それ、すごくいいですね。
右京さん:
いわゆる「タバコ臭くて、地下に潜っていく」みたいなライブハウスじゃないので、家族連れでも来やすい雰囲気だと思います。光がパーッと入る明るさもあるし。
──確かに、地下の箱のイメージとは全然違って、カフェっぽい空気がありますね。
“来てもらうきっかけ”を増やす。フリーマーケットという入口
右京さん:
あと、フリーマーケットの時とかは、お子さん連れで来てくださったりして、あれは面白いですよ。
──この会場全体がフリーマーケットになるんですか?
右京さん:
壁沿いに四角い机が並んでると思うんですけど、そこで物を出してもらったり、ワークショップをやってもらったり。お茶を飲みながら、施術を受けたり、体験したり、買い物したり、みたいなことができます。
──なるほど。音楽の場所でもありつつ、地域の“気軽な入口”にもなってるんですね。
右京さん:
そうですね。来やすい日を作って、もっと来てほしいなって。結局PRの仕方なんやろな、とは思ってます。
たまにイベントのポスティングもするんですけど、めちゃくちゃ家がいっぱいあるんですよね。人はめっちゃ住んでる。でも、そのうちの1%もうちに来てないよな、って思ったりする。だから知ってもらえたら可能性はあるし、音楽に興味ない人でも、家族や友達が興味あるかもしれない。紹介が起こりうるので、誰でも来てください、っていう感じですね。
──この空気を一回味わったら、また来たくなる人多いと思いました。「一回来てもらう」って大事ですね。
豊中(曽根)らしさは、“店主同士の距離感”にある「曽根下ストリート」
──地域でお店を続ける中で、「豊中ならでは」って感じることはありますか?
右京さん:
これ、難しいんですけど……めっちゃ限定して言うと、この通りの飲食店の人たちは、比較的若い世代(3、40代)が多くて、「みんなで頑張ろう」って空気があるんですよね。
でもここは、仲良くというか「一緒に盛り上げていこうぜ」みたいなのがある。だから「曽根下ストリート」って呼んで、この通り沿いのお店の人たちと一緒に動いたりしています。
──それ、めちゃくちゃいいですね。協力できる雰囲気がある場所って強い。
右京さん:
ありがたいですし、僕自身も「お店をやりながら地域を盛り上げたい」って気持ちはすごくあるので、一緒にやっていけてるのはいい感じやなと思ってます。
この通りも、古くからあるお店もあれば、入れ替わりもあります。でも「今、やるぞ」みたいな勢いを感じる場面が多いですね。僕としてもありがたいですし、僕自身も店をやりながら地域を盛り上げたい気持ちは強いので、一緒にやっていけてるのはいい感じだなと思っています。
街が変わると、店の役割も変わっていく
──フリーマーケットもされていると聞きました。続ける中で、地域の変化って感じますか?
右京さん:
変化って難しいんですけど……家族層は増えてきてると思います。マンションも建ってきていますし。だから、そういう人たちが「来たい」と思えるイベントを作っていくのも、これからやっていきたいことですね。
僕も最近結婚したんですけど、これから自分が家族を持つようになると、同じ視点で「どういう場所だったらいいかな」っていうのが、もっと見えてくる気がしていて。そういう変化に合わせて、お店も育てていきたいなと思っています。
──住むにはすごく良い街ですし、ベッドタウンとして昔から人が多いですよね。世代が入れ替わっても“住みやすさ”が続いてる。
右京さん:
そうなんですよ。子育て世代向けの素敵な家も多い。だからこそ、そういう人たちも来やすい場所にしたい。僕の同世代って、家庭の事情で音楽をやめちゃってる人も多いんですけど、音楽に触れに来ることはできると思うんです。楽しみの場所として、地域にあったらいいなと。
「場所がないなら、作る」──「服部ビート」から始まった“街の音楽回路”
──イベントを自分でずっと組み立てられてきたの、すごく特徴的ですよね。「服部ビート」も、このお店に来る前からすでに“イベントが軸”というか。
右京さん:
「服部ビート」は2019年から始めたんですけど、当時、地元で音楽活動したい気持ちはあっても「できる場所」がまだまだ少なかったんですよね。拠点がないというか、「どうしよう」って。
それで、開拓しないとなと思って。飲食店さんって、いいお店がいっぱいあるじゃないですか。ここでライブさせてもらえたら面白いんちゃうかな、って思いついたのがきっかけでした。
まずは、いろんなお店にご挨拶というか、普通に食べに行って仲良くなるところから始めて。そうやってつながりができたからこそ、「じゃあこの人たちにも出店してもらって、ライブイベントにしたら面白いな」って広がっていった感じです。
初回(2019年)は、使われなくなったプラネタリウムドームが「青年の家いぶき(現:青少年交流文化館いぶき)」にあって、そこを会場に音楽フェスみたいな形で開催しました。
──プラネタリウムドームでライブって、そんな使い方できるんですか?
右京さん:
なかなか異例やったと思います(笑)。館長さんとも相談しながらで。中で飲食を出すのも前例があまりなかったみたいで、ルールは厳しかったんですけど、なんとか形にして。
ただ、その直後にコロナ禍に入ってしまったので、配信ライブに切り替えたりもしました。そこから自分がお店を引き継いで始めたりもしたので、流れとしても大きく変わっていきましたね。
チケットなしで“街に音が流れる日”をつくる──サーキット型へ
右京さん:
今は、サーキットライブ形式でやっていて。だいたい3年くらい前からですね。服部の4店舗、曽根の3店舗みたいな感じで会場を回して、ミュージシャンが各会場を回る形式です。
1アーティストが2ステージ、2会場、みたいな形でライブしてもらって。チケット制の“音楽バル”とかサーキットイベントって、あちこちでありますけど、僕の「服部&曽根ビート」は、特にチケットはいらなくて。
「食べに行ったら、生の音楽が聴ける日」 にしてるんです。だからこの前の開催が終わって、ちょっとホッとしてる感じですね。
── 「高槻ジャズストリート」みたいな空気感。目指すのは、ああいう感じですか?
右京さん:
目指すはあんな感じなんですけど、まだまだ課題も多くて。集客の面でも、これ以上広げると、店舗ごとの賑わいが薄れるんじゃないかなって心配も…。
──会場が増えると、お客さんが散りますもんね。バランスが難しい。
右京さん:
そうなんですよ。来年は今回の手応え次第で、もうちょっと広げるかもしれないし、全く別の形にするかもしれない。いろいろ企画しながらやってます。ここ(店のイベント)とはまた別の調整も必要になるので、なんとかかんとか、ですね。
──そこも含めて“イベンターとしてのノウハウ”ですよね。「マワリミチ」でも何かできたら嬉しいです。
右京さん:
ぜひぜひ、お願いします。
「“ライブハウス”だけじゃない。文化が混ざる日がある」
──イベントは音楽以外にも、いろいろやられてますよね。
右京さん:
そうですね。音楽が軸ではあるんですけど、「ライブだけの場所」にしたいという感覚は、あんまりないんですよね。
映画の上映会も、このお店でやったことがあって。
90インチのスクリーンがあるので、夜だったら割とちゃんと観られるんですよ。昼間は光が入って少し見づらいですけど、暗くなってからなら問題なくて。
「映画を観る場所」として来てもらう。
それも、この場所の一つの使い方かなと思っています。
上映会/日本酒会/金継/アート展示“口実”が増えるほど、初めての人が来やすくなる
──他にも、かなり幅広いイベントをされていますよね。
右京さん:
そうですね。例えば日本酒会。
ワンシーズンに1回くらいやってるんですけど、1杯100円くらいで飲み比べしてもらって、音楽はオープンマイク形式でゆるくやる。お正月は、日本酒+音楽+落語、みたいな日もあります。
──1杯100円の日本酒に落語まで!
右京さん:
僕自身が日本酒好きなんですよ。旅行に行った先で買ってきたりとか。
専門家がいるわけじゃないですけど、「好きな人が集まったらええやん」くらいの温度感でやってます。
あと、金継(きんつぎ)もやりましたね。
教室というほどじゃなくて、「みんなでやってみよう」っていう感じです。Amazonでキットを買って、「こんなんでできるんや」って思って。
──金継、意外すぎます。実は、今朝なぜか、金継ぎの夢を見ました。あまりない事だと思うんですが(笑)。お客さんには好評でしたか?
右京さん:
軽い予知夢ですね(笑)。
結構、人は来てくれました。音楽とは直接関係ないけど、「ちょっと気になる」っていう入り口になる。
11月の文化の日には、アートイベントもやりました。
絵を描いている人が展示をして、音楽もやっていて、ライブもする。音楽も絵もやっている人に出展してもらったりして。
音楽に興味がない人でも、そうやって一回来てもらえたら、次に「今日はライブあるんや」「こんな音楽やってるんや」って、自然につながっていく。
“口実”が増えるほど、初めての人は来やすくなるんですよね。
ライブハウスって聞くと、どうしてもハードルを感じる人もいる。でも「今日は映画の日」「今日はフリーマーケットの日」なら、ふらっと来られる。

沿線に点在する、小さなライブスポットたち
──この辺り、ここ数年でライブハウスやライブスポットが増えてきたと聞いたんですが。
右京さん:
そうですね。この沿線は、各駅ごとにライブができる場所がある感じですね。
岡町もありますし、服部にも2軒くらいあります。
──岡町にも?
右京さん:
「アビリーン」というお店があるんですけど、たぶんコロナの時期がきっかけやったと思います。市内でやっていたお店が、こっちに移転してきたりして。
ほかにも「あーとらんど」みたいなフリースペースがあって、フォークの会やブルーグラスの会をやっていたりとか。
この前の「曽根ビート」でも一緒にやってくださった「ゴールデンゲート」さんも、同じ沿線ですね。
──そんなにあるんですね。
右京さん:
ありますね。ゴールデンゲートさんなんかは、もともとおじいさんの代に市内でやっていて、「もう一回やろう」ってことで曽根に戻ってこられたお店なんです。
──歴史のあるお店が多いんですね。
右京さん:
そうですね。
この辺りは、アコースティック系というか、小規模なライブバー、ライブカフェが多い印象です。派手さはないけど、ちゃんと“いい音”が鳴っている場所が多い。
──知らなかったです。探してみると、ちゃんとある。
右京さん:
あります、あります。将来的にも、まだまだ増えていくんじゃないかなと思いますね。
地元に密着する人ならではの工夫や試み、楽しい話はまだまだ尽きない。
「ひとまず、一回来てみてほしいんです」──右京さんは言った。
ここに来れば、誰かと話せたり、音楽に触れたり、次に何かを始める“きっかけ”が見つかる。
閉店から2ヶ月で引き継がれたこの場所は、
ライブハウスであり、文化が混ざる“場所”として、まだまだ進化の途中だ。
ハイサイドライトから溢れる柔らかい光の下に、今日も人が集う。

Live Cafe ARETHA のオーナー右京さんのマワリミチリンク


